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大阪高等裁判所 昭和25年(う)1287号 判決

被告人

田辺正吉

主文

原判決を破棄する。

本件を神戸地方裁判所姫路支部に差戻す。

理由

被告人の控訴趣意について。

記録によれば、被告人は昭和二五年三月二五日附原審裁判所に対する回答書(同回答書には昭和二〇年三月二五日とあるのは昭和二五年三月二五日の誤記と認める)を以て原審裁判所に対し貧困を理由として国選弁護人の選任を請求したが、同裁判所はこれに対する決定をなさず同年四月三日弁護人の出頭なくして公判を開廷し審理を遂げたことは所論のとおりである。刑事訴訟法第三六条によれば被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所はその請求により被告人のため弁護人を附しなければならない旨定めている。しかし裁判所はたとい弁護人選任の請求があつたからとて必ずしもこれを許可しなければならないという訳ではなく適宜の方法により被告人が貧困のため自ら弁護人を附することができないかどうかを判断しその許否を決し得ること勿論であるが、右請求に対しては公判審理前にその許否を決定しなければならないものと解しなければならないのである。けだし、裁判所が右請求を却下する決定をなせば被告人からこれに対し抗告することができるのであつて、この決定は被告人の弁護人選任権は重大な関係を有するものといわねばならぬからである。従つて原審が被告人のなした前記弁護人選任の請求に対する決定をなさずに弁護人の出頭なくして公判を開廷審理した訴訟手続は違法であつてその違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

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